SEO目的での利用

(下)

 

 

「泥だらけだな。中に入る前に外の水道で長靴を洗って干しておきなさい。その間に風呂を沸かしておくから、そのまま風呂場においで」

と言い置いて風呂に湯を張る。

歩くうちにどんどん手が熱くなってきたから、眠いのだ。

寝かせてしまえ。

 

案の定風呂から出たピノコは見るからに眠そうだ。

「カレーつくらなくちゃ」

と口では言いつつ何もせずだらだらしているので

「疲れているなら昼寝してきなさい。カレーは明日でもいいじゃないか。今日はボンカレーでも俺は構わんよ」

と優しく言ってやったのだが

「せんせいひどい。ピノコのおイモ、たべたくないの?」

と泣かれてしまった。

うーん、ボンカレーは失敗だった。

せめてカップラーメンにしておくべきだった。

「いやあ、せっかくのイモは食べたいよ。きっとボンカレーよりずっとうまいだろうからな。じゃあこうしよう。昼寝が終わったらカレーを作るんだ。下ごしらえくらいは俺も手伝うから、ジャガイモはピノコがやっておくれ。2人ならそんなに時間がかからないと思うぞ」

とかなんとかなだめ、それでもぐずぐず言うのをベッドに連れて行く。

あんなに寝室に行くのを嫌がっていたのに、枕が頭に着いたとたんに寝てしまうのだから、子供っていうのはあっけない。

まるでスイッチが切れたよう。

寝やすいように窓を開けて風を入れ、バスタオルをお腹にかけてやる。

あの分では2時間くらいは寝てしまうかもしれない。

 

なんて思ったのだが、甘かった。

6時近くになったのでピノコを起こそうとしたが、熟睡していて起きない。

そろそろカレーを作り始めないといけないはずだ。

普段ならこんな時はカップラーメンかボンカレーで済ませてしまうが、ああ約束をした手前、手作りカレーじゃないと怒るだろう。

そうでなければ悲しむだろう。

 

仕方ない、作るか。

 

実際のところ、俺だって料理位はできる。

手順さえわかれば、あんなの実験と一緒だ。

手先の器用さは折り紙つきだし、レシピの通りにすべての材料を計量してから作り出すので無駄な動きもない。

ただ箱裏の説明がおおざっぱすぎるのが気になるだけだ。

 

ジャガイモ2個、ニンジン1本、玉ねぎ(大)1個とあるが、人参にもいろんな大きさがあるし、俺の買ったこの玉ねぎは大きいのだろうか。

普段売っている大きさだと思うが、これより大きな玉ねぎも小さな玉ねぎも見たことがあるので中位なのだろうか。

だとしたら1個半入れればいいか、2個入れちまうか。

また肉は200グラムから300グラムとあるが、俺の買ってきたパックは345グラム入りだ。

これは45グラム減らすべきだろうか、それとも100グラムくらい減らしたほうがいいのか、面倒だから全部入れて「肉大目にしといたぞ」と言えばいいのか。

 

そういう部分が気になるのだ。

何しろ普段のオペではほんの毛先ほどの絶ち方の違いがオペの精度を変えるから。

 

しばし迷うが、天啓がひらめいた。

よくよく考えれば具の多いカレーもあれば寂しいカレーもある。

だからカレーを作るに当たって重要なのはそこじゃなく、途中で加える水の量ではないか、と。

 

じゃあせっかくだから具は多めで考えればいいか。

肉は全部。

人参は一番大きいの。

玉ねぎは2個。

ジャガイモはピノコに選ばせればいい。

 

肉は角切り。

普段食べている肉の大きさを思い出しながら、なるべく立方体になるよう切っていく。

玉ねぎは茶色いところが混ざるとまずいんだけど、上のほうが茶色でも下がちゃんとした玉ねぎの時はどこまで剥けばいいのだろう。

頭を大きめに切り取りすぎたかな。

これを端から5ミリから1センチの厚さに切る、と。

間を取って7ミリでそろえるか。

好みのカレーを出す喫茶店のマスターはみじん切りのたまねぎを香辛料と共にじっくり炒めると言っていたが、きっとそれは上級者向きだ。

俺はこれでいい。

 

人参も皮を剥き輪切りか。

大根は横にかつら剥きをするんだろうが、ニンジンは難しそうだな。

縦かな。

薄く細く剥いていき、それから輪切り。

何ミリがいいんだろう。

玉ねぎに指示があるなら、ニンジンにも指示してもらいたいものだ。

うーん、7ミリにしておくか。

 

定規で計ったように等間隔に切られた野菜たちに満足して鍋に向かう。

鍋を熱して油を大1。

大ってなんだ。

大きいってことはお玉に1杯か?

結構入るな。

それを熱して、肉を入れる、と。

わ、跳ねる。

あわててひっくり返そうとしたら、肉が鍋肌にくっついた。

あれ、取れない。

箸で無理やりはがしているうちに他のやつが焦げ始めた。

わ、わ。

 

なんてことをしつつも順調に? 手順は進み、ジャガイモ以外のものを炒めたところで火を落とす。

「ピノコ、起きろ」

と揺り起こしに行くが、むにゃむにゃ言うだけでまた眠ってしまう。

仕方ない、ジャガイモも入れちまうか。

 

一番大きい奴はピノコが自慢しそうな気がしたので、中くらいのやつを3つほど選び、水の中でこすると水がまっ黒くなる。

水を換えてくぼみの泥まで落ちるようによくこすると、つるりと茶色い皮まで剥けた。

あ。

掘りたてのジャガイモってこんなに皮が軟らかいのか。

そういえば子供のころ、母が小さいジャガイモを皮ごと甘辛く煮てくれたことがあった。

あれ、うまかったな。

「掘りたての新じゃがじゃないとこんな風に食べられないのよ」

と言っていたっけ。

袋の中には小さな芋もたくさん入っている。

こんなのを調理できる腕が俺にもあったらよかったのに。

 

ジャガイモを切りそろえて鍋に入れ、再度火と水を入れたところでチャイムが鳴った。

急患だろうか。

玄関に急ぎ、ドアを開けるとキリコがいた。

「なんだ、どうした」

と言うと

「カレーを食べに来いって留守電、お前さんじゃなかったか? 俺にそんなこと連絡する奴他にあてがないから来たんだが」

と言われ、昨日の電話を思い出す。

「そういえばそんな電話もかけたな」

とつぶやくと

「なんだ、それは」

とあきれた声を出すので

「ピノコが今日芋掘りだったんだよ。だけどこんな一軒家じゃおすそ分けをするあてもないから、侘しい独身者に家庭の味を振舞わせる楽しみくらい味あわせてやりたくてな」

と拝む真似をすると

「それにしちゃ、本日の主役が出てこないな。台所か?」

と聞かれた。

「実は疲れて寝ちまった」

と言うと

「でも料理の匂いがするな」

と鼻を動かすので

「仕方ないから俺が作っているんだ」

とばらすと

「ほう、今日は侘しい独身者にどんな家庭的な手料理が出てくるのかな」

とチェシャ猫のようににやにやされた。

大した手料理じゃなくて悪かったな。

 

「ピノコ。夕飯にしよう。お前のジャガイモでカレーを作ったぞ」

と彼女を揺り起こすと

「え、ピノコがつくろうとおもったのに」

と言いながらも

「先生のカレー? 先生、カレーつくれたの?」

と目を丸くするので

「どんなふうにできたか、味見してくれ。今日はピノコが食べる係だ」

と言ってキッチンでなくテーブルに向かわせる。

台所に入ると、キリコが水の用意をしていた。

鍋にルーを放り入れ、お玉の上で溶いていると

「おお、ちゃんとカレーの色になっているな。ジャガイモどこだ」

と横から覗き込まれ、見ると表面には人参と肉しか見えない。

「あれ」

とお玉を底からかき混ぜると小さな白いものが浮いてきた。

「…溶けたな」

と言う男を背に、慌ててルーの裏の説明を再度読むと「ジャガイモは大きめに切り」「ほかの野菜が柔らかくなってから入れ」と書いてある。

しまった、イモって溶けるのか。

ほかの野菜と一緒の7ミリにそろえて切っていた。

 

「ま、とろみになるからいいんじゃないか」

と言う男の言葉を背に聞きながら炊飯器のふたを開けて、固まる。

米を炊くのを忘れていた。

「先生は侘しい独身者にどんな手料理を?」

俺の手元を覗き込んでつぶやく男に

「あと1時間待て」

と叫んで米櫃を開けた俺は、今度こそうめき声をあげた。

米が切れている…。

 

「先生、まだ?」

と台所を覗くピノコにぎくりと肩を上げる俺の後ろで

「嬢ちゃんのジャガイモってこれか。すごくたくさん取ったんだな」

とキリコが話しかけている。

「うふふ。すごいでしょ」

と笑うピノコの声が弾んでいる。

なのに俺はまた彼女の喜びに水を差すのか。

 

「あとちょっとみたいだから、あっちでテレビを見ているといい。先生ががんばっているから、楽しみにしておいで」

と言うのはキリコの嫌味か。

あの男だって米櫃の中には気づいているはずなのに。

「はーい」

と嬉しそうな声を上げてパタパタ去るピノコの足音を恨めしく聞いていると

「ほら、先生。これ洗え」

とシンクにジャガイモをいくつも放られた。

 

「お、さすがに新じゃが、皮まで剥けるな」

と言いながら自分もこすり始めたキリコに負けじと、ジャガイモを洗う。

「どうするんだ」

と聞くと

「もうこれを主食にするしかないぜ。ま、ドイツあたりじゃイモが主食なんだし、カレーに合うからいいんじゃないか」

と言いつつ皿に載せたそれにラップをかけると手早くレンジに入れてしまう。

数分後、言われるままに湯気を立てるジャガイモにフォークを突き刺し適当に崩してから皿に並べ、カレーをかけたものをピノコの前に置いた。

 

「いただきます」

ちょっと不思議そうに眺めてからスプーンを取り上げたピノコは、一口食べて

「あー、ごはんじゃない。これピノコのおイモだ!」

と言って破顔した。

「お嬢ちゃんのイモはうまいなあ。しかもBJ先生の手料理とはね」

わざとらしく言いながら澄ましてスプーンを繰るキリコの脛を蹴ってやろうかと一瞬思い、やめる。

「カレーに入ってるおイモとちがうのね。このおイモ、カレーパーティのやつみたい。ほくほくしてる!」

とピノコが嬉しそうに笑うので。

 

翌日ピノコが園でそのおいしさを力説したので、なのはな組の家庭ではしばらく妙なカレーが流行ったというが、真偽は定かでない

 

 

 

(上)へ

 

 

掲示板でリクエストを募集したら、RH−様がピノコの幼稚園の話をリクエストしてくださいました。

正直幼稚園とのかかわりから離れて久しかったし、主だった行事は書いたのでどうかな、と思ったのですが、子供には大事ないもほりを忘れていました。

親は見られないから、外から伺うしかないんですけどね・・・

RH−様、どうもありがとうございました!