頼み事

 

 

 

「一度抱く側に回ってみたいんだが。」

開口一番そう言われて、俺は酒を吹き出しそうになった。

むせながら何とか飲み込み、奴を見る。

いたって真面目な顔。

俺をからかっている訳ではなさそうだ。

「何で急に」

「いや、お前さん相手ならできるかな、と思ったんだ。」

 

ここはヨーロッパのとある都市。

仕事が終わって帰国の前に、いるかな、と奴の家に電話したら、留守のお嬢ちゃんが言うBJの居場所が近かったので、俺の居場所を伝言しておいた。

そうしたら奴も仕事が終わった所だったらしく、合流してきたのだ。

 

「できるかな、ってお前さん、女の経験くらいはあるんだろう」

と聞くと、妙な間が空いたあと

「・・・まあ」

と答える奴の顔はあからさまに怪しい。

「どういう経験だったか聞いていいか」

と言うと、嫌そうな顔をしながらも初体験の話をしてくれた。

 

まあいわゆる有閑マダムに目を付けられて無理やり関係を迫られたが、絶対拒否の姿勢を崩さなかったら拘束され、そいつの愛人に掘られたあげく、勃起した所に上にまたがられたんだそうだ。

類似経験が2度ほどあり、とにかく恋愛沙汰になりそうになると避けて通る癖がついたと。

 

何て頑なな奴なんだ。

とりあえず1回しておけば防げた災難なんじゃないか?

同じ男として奴の考えることは理解し難い気もするが、そこで妥協できていればこんな性格にはならないんだろう。

 

「でもお前相手なら何度もしているし、いけそうな気がするんだ」

と言われては、仕方ないか、とあきらめも入る。

 

今回防音の良いホテルに泊まったのは男の下心だったのだが、まさか俺がいただかれる側に立つことになろうとは。

「一度だけだからな」

と念を押した。

 

シャワーを浴びながら妙なことになった、と思う。

男相手に下だったことはあるが、そんなの10年以上前だ。

体も硬くなっているし、俺は元々あいつのように柔らかくはないし。

面倒くさいから下だっただけなのに、初めての奴相手にうまくいくのだろうか。

いや、でも俺と何度も寝ているのだから、手順を知らないわけではなし。

案外傍観していても大丈夫か?

 

そういえば浣腸なんてしていない。

あいにく道具も持っていないし、外国に多いがシャワーは作り付けのものなので、湯で洗浄することも出来ない。

排便はしたが、言っておいた方がいいかな。

 

まるきりリラックスできずに風呂から出ると、奴がベッドカバーも毛布も下に落として待っていた。

ベッドシーツの上には枕しか置いていない。

秘め事というより、プロレスでも始まりそうだと思うのは、俺の被害妄想だろうか。

思わずごくりとつばを飲み込む。

 

「のんびりした入浴だったな」

と言われ、

「道具がないから内部は洗ってないからな」

と念を押すと

「別に直接触るわけじゃないからいい」

とカバンからなにやら取り出してベッドに放る。

あれはもしや、手術用手袋?

いくら使い捨てだからって。

まあ男同士のセックスなんて不潔なものなのだから素手で触りたくない気持ちはわかるが、相手に失礼だとは・・・思ってないよな。

きっと自分もその位して欲しいと思っているに違いない。

俺も今度から用意したほうがいいのだろうか。

 

俺の中の秘め事ムードが一気に流れた。

いつも俺はいろいろ気を使っているつもりだったが、こいつ相手に馬鹿したかな。

 

ベッドに上がってキス。

ふてぶてしいのは緊張からだったのか、奴はいつにも増してがちがちになっている。

何だ、そんなのじゃうまくいくものも行かなくなるだろうが。

強引に突っ込んで動かすだけの舌をなだめつつ口内を愛撫してやると、ぎゅうぎゅう抱きつくだけだった腕が和らいで、やっとまともな抱擁に近くなった。

そっと背や脇をなでてやると、ようやく気付いたのか、奴の手も動き出す。

別にお前相手に気持ちよさなんて求めてないから、トラウマだけ成功体験で上書きしろ。

ちゃんと付き合ってやるから。

口には出さない俺の考えが伝わったのか、奴がはにかむ笑いを見せた。

 

奴は何かを吹っ切ったのか、俺にのしかかるとガウンをはいで大胆な触り方をしてきた。

俺も奴の紐を解き、上下が逆になるだけでいつもと同じようなことをする。

ライトの光がまぶしい。

しまった、明かり、消しとけばよかったかな。

俺は歳の割には鍛えていると思うが、それでも奴よりずいぶん年上なのだ。

あまりまじまじ細部を見られたくはない。

こいつ、いつもはそんなに人の事なんか見ないくせに、きょうは動きやすい体勢だからか色々と観察されているような気がする。

グマの手術の跡をうっとりと辿られた時、鳥肌立つような快感を覚えた。

そのことに羞恥心がわいて逃げ出したくなるが、我慢だ。

いつも恥ずかしがるなと言っているのは俺の方なんだから。

 

「気持ちよくなってきたか?」

と聞くので

「ああ」

と答えてやると、ほっとした顔をしている。

時々乱暴だ、とも思ったのは内緒だ。

 

「さて」

と気合を入れるのでなんだ? と思っていると、おもむろに手術用手袋を右手にはめてワセリンを塗りたくると、直腸診そのままに指を突っ込んできた。

そのまま中でぐりぐり回しながら

「そういや昔は精液の検査する時、こんな風に前立腺刺激して採取していたんだってな。今は自宅で採ってきてもらったり、トイレや自慰室を作ってそこで出すって言うけど、どう考えたって早いのはこっちだよな」

なんて話を振ってくる。

今の俺のような気分になるからやらなくなったに決まっているだろうが。

そんなこと、こいつは思わないか。

それどころか

「お、やっぱり一発で勃つよな。やっぱり俺だけじゃないよな」

なんて言いつつ人の局部を凝視している。

 

デリカシーのない奴。

これだから医者馬鹿は、なんて思っているとぱくりと咥えられた。

びっくりして半身を起こしかけたら下半身に力が入ってしまい、元の位置に倒れこむ。

今までそれとなく要求してもだめだったのに。

だからオーラルは衛生面が気に入らないか、嫌な思い出でもあるのかとあきらめていたのに、こんな時にされても心情的に嬉しくない。

俺が急に動いたのに気付いてこちらを向いたので

「急にどうしたんだ」

と聞くと、

「目の前でむくむく育っていくのを見たら、できるかなと思ったんだ。無理やり突っ込まれると気持ち悪いだけだが、自分からやるなら調節できるものなんだな」

と咥え直された。

 

なかなかいい眺めのはずなのに、指が中でいろいろ悪さをするのでゆっくり顔も見られやしない。

「もういいんじゃないか」

と言っても

「お前さん、10年以上ぶりなんだろ。だったらよくほぐさないとだめだろうが。出していいぞ。性病持っていないのは検査済みだから。もちろんこの間から他の奴とやってなければだが」

などと人を疑うようなことを。

それよりも、いつ性病検査なんか。

「この間のゴミを梱包する時に少し採取させてもらったんだ。俺も何も持ってないから安心しろよ。」

 

ドクハラだ。

当事者に無断で検査するなんて、犯罪的なドクハラだ。

この悪徳無免許医め。

人の尊厳をなんだと考えているんだ。

ああでもこいつ、きっと今までにも誰かの様子が変だと無断で採血して検査したりしていたんだろうな。

いかにもそんなことしそうな奴だ。

善意でやっているつもりなんだ。

そういう所が思想的に合わないんだ。

 

そんなことを心の中で憤っている間にも下半身はどんどん臨界点に向かって行き、とうとう爆発してしまった。

あわててティッシュを何枚か抜いて差し出すと、その中に吐き出しているようだ。

良かった。

飲み込まれたらどうしようかと思った。

女に「飲んじゃった」と言われるのとは訳が違う。

こいつにされたら

「やっぱりまずいな」

くらい平気で言われる。

などと油断していたら、伸び上がってきてキスされた。

 

うわ、舌入れるな、自分の味なんて絶対知りたくない。

ぎゃあこいつ最低だ。

ヒルだ。

スッポンだ。

首を振って逃れようとしたが、耳を強く引っ張られて断念した。

耳たぶ触るな気色悪い。

俺はそんな所気持ちよくない。

お前じゃないんだから。

俺の真似をするのなら、そういうことした後はディープキスしない方を真似て欲しい。

 

「お前が俺のを咥えるのを、自分からするなんて変な奴、とずっと思っていたんだが、自分が主導権握っている時には屈辱感なんてないんだな。それより面白い。結構色気もあるじゃないか」

と言われて頭を叩いた。

 

「ところで避妊具買うのを忘れたんだが、お前持ってきているよな」

と言われ、さっきこぶしで殴ればよかったと思う。

こいつ最低だ。

俺が女なら、ここでさよならだ。

したい方が持っているのがマナーだろうが。

でもそのままされても自分が大変なだけなので

「・・・ズボンのポケット」

と教える。

俺も最低だ。

 

腰の下に枕を押し入れて準備万端、という感じで迫ってくるあいつから逃げ出したい。

今から逃げられるわけもないので、なるべく自分に負担がかからないよう、力を抜こうとするのだが。

最初の部分はほぐしてあるから何とか入ったが、問題は指でほぐせなかった奥の方だ。

うわ、強引に入れてくるな。

もっとゆっくり、と言っているのに、やはり童貞(?)だからか入れだしたら夢中になってしまったらしい。

無理やりねじ入れてこっちのことなど考えずにがんがん突きこんで、あっけなく1人で終了。

 

・・・まあいい、奴は初めてなんだし、苦行が終わったと思えば。

そう思って倒れこんできた奴の背をなでてやっていたが、だんだん重くなってきた。

そろそろどいて欲しい。

でも初めて位余韻に浸りたいかもしれないし、と強い態度に出られないでいたら、入ったままの奴が元気になって・・・きた?

まずい、抜かせようと身をよじったら

「悪い、もう一度」

と足を抱え上げられた。

おい俺は10年以上していないし、体は硬い方でそんな体勢若い頃でも無理、と言うのにお構いなし。

仕方なく快感に注意を集中しようとしても関節がみしみし痛むのでそれ所ではない。

しかも俺のは放りっぱなしだし。

仕方なく自分で刺激し始めたら

「あ、それ気持ちいい。もっと。あ、ちょっと待て」

と人がやっといきそうになると根元を掴むし。

そのまま自分だけいくし。

 

俺が女だったら、こいつ絶対半殺し決定だ。

じりじりしながら思っていたら、さすがに殺気に気付いたのか、後始末に入ってくれた。

やれやれ。

今度こそちゃんと口だけでしてもらったが、へたくそなりに相手の反応を気にするようになったのは進歩、と思っておこう。

 

ぐったり疲れながら

「感想は?」

と聞いてやると、

「もう1回しちゃだめか」

と言われ、俺は最後の力を振り絞って奴をベッドから蹴り落とした。

 

 

 

今回ちょっと上下が逆転しております。

といっても出てくるのは相変わらずの二人なのですが。

・・・すみません。

厳しいご意見をお待ちしております。

 

 

 

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