オペ後
病院でオペを終えた後、俺は車を走らせていた。
本来ならこういう長時間のオペの後は空き部屋でひと寝入りさせてもらうのだが、今回は病院が難色を示すのをごり押ししてのオペだったのでそれもできなかった。
あまり眠くて、このままでは事故でも起こしそうだ。
どこかホテルでも探すか、と思って、ここはあいつの家に近いと気がついた。
行ってしまえ。
奴はいないかもしれないが、それなら車の中で眠ればいい。
下手な駐車場のようにいたずらされることもないだろうし。
そう思って最後の気力を振り絞り、奴の家まで走らせた。
勢いよくチャイムを鳴らす。
しばらく耳を澄ましてもう一度。
さらにもう一度。
いないかな。
じゃあもう一度鳴らしたら車に戻ろうとチャイムに手をかけたとき、奥のほうでどどどっとすごい音がし、ちょっと罵り声が聞こえた後どすどすという足音が近づいてきた。
「お前か」
とドアを開けた顔は不機嫌そのもの。
でもこっちももう眠気の限界だった。
「ソファでいいから貸してくれ」
と言いつつ横をすり抜け、コートと上着を最後の理性でハンガーにかける。
そのままソファに横になろうとしたら
「風邪を引くからベッドに行け。ほらこっち」
と腕を引かれた。
半分夢うつつのまま誘導され、頭が枕についた途端眠りこけていた。
ぽかりと目を開けたとき一瞬ここがどこなのかわからずあせったが、寝ぼけた一瞬が過ぎれば奴の部屋だった。
シーツや枕から奴の匂いがする。
時計を見るとまだ明け方なのにすごくすっきりしていて、よほど深く眠ったんだと思う。
いつの間にかシャツも緩められているし、ズ、ズボンも履いていない・・・いや、下着はつけているし、きっとしわになるから脱がせてくれたんだろう。
気づくと俺はベッドの真ん中を占領していて、奴は端っこで今にも落ちそうになっている。
俺、そんなに寝相が悪かったんだろうか。
もう一度目をつぶって眠れるかと試してみたが、どうもすっきりと目が覚めたらしい。
2、3度寝返りを打ってもだめそうなので体を起こしたとき、奴の顔が目に留まった。
眉間にしわが寄っている。
そんな顔ばかりしていると余計老けるんじゃないか。
そう思って眉間をちょっとさすってやるが、わずらわしそうに口をへの字にする。
そんな苦虫噛み潰してなければ結構見られる顔なのに。
自分も仏頂面なのは置いておき、奴の口の両端に指を当て、上げてみる。
こんな風に口角を上げれば、ほら。
イメージと違うな。
嫌味な感じになってしまった。
なんかもっとこう自然に上げないといけないか、と色々角度を変えて試してみるが、今度は皮肉でも言っているようにしか見えない。
ちらりと歯が見えたりするといいかもしれないが、さすがに今それは無理っぽいし。
大体気になるのはやっぱり眉間のしわだ。
このしわが口元の笑みをぶち壊しにしているんだ。
寝ているときくらいリラックスすればいいのに、そんな端に寝ているから安眠できないんじゃないか。
ちょっと引っ張ってやろうか。
そう思って首の下と腰あたりに腕を入れて引っ張ろうとしたのだが、全然うまく動かない。
腰から斜めになってちょっと苦しげに見える。
じゃあ足を、と持ち上げようとしたら、そのまま蹴落とされた。
飛び起きて胸元をつかみ
「急に何するんだ」
となじると
「人の安眠をそこまで邪魔するとどうなるかわかっているんだろうな」
と言う言葉とともに引きずり倒された。
乱暴にシャツをはだけられ、あせる。
俺は10時間近くのオペをして、すごく腹が減っていたからカレーを流し込んで、そのままここに来てしまったのだ。
歯も磨かずに眠ったから口の中はねばねばだし、自分で言うのもなんだがものすごく汗臭い。
トイレで放尿した後ももちろんそのまま収めたし、オペ後に食べたカレーがそろそろ大腸に行っているんじゃないだろうか。
指を突っ込まれて何かに当たったりしたら。
うわ、いやだ。
がむしゃらに暴れたら手が奴の顎にヒットしてしまい、それまでも友好的とはとても言えなかった奴の顔が鬼になった。
「いや、せめてシャワーだけでも」
と言う語尾が小さくなっていく。
きっと無理だ。
案の定
「うぶなお嬢さんじゃあるまいし、お前はどこの無免許医だ。
俺だって昨日は外国から帰ってきたばかりでやっとうとうとできた所だったのに、チャイムを鳴らし続けやがって。
お前は1秒で夢の中だが俺はついさっきまで目がさえて眠れなかったんだ。
飛行機の中も赤ん坊の隣だったからまったく眠れなかったし。
睡眠不足の欲求不満を全部性欲に転化させてやるから四の五の言わずに付き合ってもらおう」
と言う言葉は殺気立っていて、とても再度お願いできる感じではない。
首の付け根辺りをがぶりと食いつかれて恐怖にすくみ、そのまま舐められてすくんだ分だけぞくぞくする。
「しょっぱいな。汗臭いぞ」
と言われて赤面。
だからシャワーを浴びたいと言ったのに。
「下準備に10分だけくれないか」
と下手に出てみたが、奴は黙ったまま俺の顔を見てにやりと笑うと本格的にいろいろ始めたのだった。
こいつ、今日はしつこい。
いつもは本当に嫌がればやめるのに、同じ所を何度も形を変えて刺激され、普段感じることのない場所でも感じさせられる。
胸をいじられて声を出すなんてとんでもない。
右手の指に歯を立てられておびえ、その後優しく舌でなぶられ恍惚にしびれる。
ひざ裏にむしゃぶりつかれてひどく感じてしまい、俺は今どんな格好をしているんだとぼんやり思う。
だが肛門部を舐められる感触に、唐突に現実に戻る。
普段ならまだいいが、今日は。
まるで内視鏡映像を見るように体内を想像してしまい、うろたえる。
「よせ、汚い」
と力が出ないなりに暴れるが
「あいにくジェルが手の届くところになくてね。別にお前に舐めろと言っているんじゃない、汚いことをするのは俺なんだから」
と押さえ込まれて再度音を立てて舐めまわされた。
いたたまれなさに憤死しそうなのに確かに感じている部分もあり、体を切って捨ててしまいたくなる。
昔みたいに無感覚になりたい。
なりたいのになれない、どうしても。
そんなに強く押さえ込まれているんじゃないのになぜ逃げられない。
思い切り蹴り飛ばせばいいのになぜためらう。
こんなことでも享受したいという気持ちがどこかにあるなんて。
こういうのは嫌だ。
嫌だ嫌だ、嫌だ。
ため息ともに
「本当にお前はうぶなお嬢さんか」
と言われ、思わず目を開ける。
「そうでなければクソガキだ。そんな顔して人の罪悪感をあおるんだから。泣く子と地頭には勝てないとはよく言ったもんだ」
と嘆かれ
「泣いてなんかないぞ」
と飛び起きる。
「こぼれてないだけの癖に意気がるな」
と返され
「出たのと未遂じゃ大違いじゃないか。強姦を考えてみろ」
と反論すると
「やっぱりクソガキだ」
とつぶやかれた。
再度の反論はクソガキそのものなので口をつぐむ。
「ま、いい。出すだけ出してやるから、風呂にでも入ってこい。俺は寝なおしに挑戦するから」
と俺のに屈みこもうとするのを制す。
「お前は」
と聞くと
「無理やりは趣味に合わないことがつくづくわかったからいい。俺も風呂に入ってないから潔癖症のお前に何かさせようとは思わないし」
と言われ、無性に悔しくなる。
俺だけすっきりさせてどうするんだ。
まるきりガキ扱いだ。
別に俺だってそうそう潔癖症と言うわけじゃない。
消毒もせずに切ったことだって何度もあるし、相手が吐しゃ物にまみれていたって人工呼吸するし。
要は唾液も何も飲み込まなければいいんだ。
大きく深呼吸して奴の中心にダイブした。
思い切りくわえ込んだら奴のあわてた声がして、意味もなく勝ったと思う。
ほかの奴に無理やりさせられたことなら何度もあるんだし、こいつにだって一度はしたことがあるんだから。
とにかく最初の抵抗感がなくなれば結構大丈夫。
独特の匂いやなんかはお互い様の範疇だろう。
上から髪をすいてくれたのが気持ちよかった。
くしゃりとかき混ぜられるのはさっきまでのように追い立てられるようなのとは違う、純粋な快感で。
「やっぱりきちんとしていいか。ちゃんとジェルもサックも持ってくるから」
と言われ、顔を上げると奴も困った子供みたいな顔をしていた。
そんな顔を見ると意地悪をしてやりたくなったが、あいにく具体的な意地悪法が見つからなかったし、それこそ大人気ないのでやめた。
抱き合って、キスして、そういや二人とも相手のあらぬところを舐めたりしていたんだよな、と思ったが、そんな事はもう気にならなかった。
やっぱりこういうことは同意の上がいい。
むちゃくちゃな俺が思っていいことじゃないかもしれないけれど。
奴が俺と同じだけ気持ちいいといいのだが。
終わった後風呂を沸かしに行こうとしたら
「ほんのちょっと一緒にいてくれたら眠れそうな気がする」
と言われ、ベッドに戻った。
「ほら坊ちゃん、髪の毛をなでてやるから寝ちまいな」
とふざけると少し嫌そうな顔をしたが、俺の手を払うでもなくおとなしくなでられてすぐに深い寝息を立て始めた。
そういえば俺も寝る時母に髪をなでられるのが好きだった、と思い出した。
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