人間嫌い

 

 

安楽死を生業にするようになって以来、俺は他人に興味を持たなくなっていった。

どんなに親しくなっても、死ぬときは1人。

どんなに強い絆も、死には勝てない。

なら、そんな絆、作らなくてもいいじゃないか。

 

人恋しいから、雑踏は好き。

一夜の相手も好き。

色んな所に行くのも、新しい人に会うのも大好き。

でも3日同じところにいると、息苦しくなる。

逆に家にこもり始めると、次の依頼まで外に出る気にならない。

 

そんな中でブラックジャックに出会った。

 

やつはうるさかった。

頑固でしつこかった。

人の顔を見るや否やけんかを吹っかけてくる。

こっちだって依頼されて来ているなんてこと、これっぽっちも考えてない。

しかもよく会う。

わずらわしくて、うっとうしい。

 

やつは怒った顔と、優越感に満ちた顔しか持ってないんだろう。

そんな認識が変わったのは、とある居酒屋だった。

何となく入った大衆酒場。

つまみを待っていたら、何かもめている。

何の気なしに見ていたら、つまみと一緒にブラックジャックの視線が俺のところに来た。

 

どうやら俺の頼んだ皿が、最後の一皿だったらしい。

恨みがましい顔が見たことないくらい子供っぽくて、つい

「一緒に食うか」

と誘っていた。

 

飲みながらぽつぽつ話すと、案外悪くない。

その日はいつもより全然飲んでいないのに気持ちよく酔い、安眠できた。

 

その後も何度も会った。

依頼人宅はもちろん、お互いの相手が違っている時も、単に依頼を終えてぶらぶら旅をしている時にも。

口論をし、出し抜いたり出し抜かれたりし、酒を飲み、時に行を共にしているうち、うっとうしさはなくなっていった。

 

次に変化がおきたのは、悪酔いしているのを見かけたときだった。

明らかに適量を超えているようなのに、まだ飲んでいるのは奴らしくなかった。

俺は辺境から帰ったばかりで人恋しかったので

「うちで飲むか」と誘ったが、本当に来るとは思ってなかった。

 

あんなブラックジャックは見たことがなかった。

本人のために詳細は省くが、俺がその晩トイレとリビングを掃除する羽目になったのは事実だ。

酔っ払いの前後の脈絡のない話は半分もわからなかった。

でもそれから彼に興味を持った。

 

暇な時は一緒に飲むようになって、少しずつお互いの口数も増した。

だが何か物足りない。

だから誘ってみたのだ。

自分から誰かを誘ったのはどれくらいぶりだろう。

 

奴はキスをすごく嫌そうにしたし、自分で言っていた通り反応も鈍かった。

だが、競争をちらつかせると俄然張り切るあたり、あいつらしい。

明らかに色事に慣れていないのに、男との性行為が経験豊富なのも明らかだった。

ダメージをなくすことにだけ秀でた体。

よほど嫌な経験でもあったのか。

性行為としての評価はどうあれ、面白かった。

 

それから「飲もう」と誘っても、奴はうちに来ようとしない。

「こっちに来い」と言うので手土産を見繕って遊びに行く。

お譲ちゃんにはケーキを。

奴には俺も食べられるような、何か甘いもの。

 

奴は酒飲みの癖に甘い物好きで、うちに来る時必ず和菓子を買ってきて、酒を飲みながらうまそうに食うのだ。

3個でも4個でも、実に嬉しそうに食う。

俺も和菓子は嫌いではないが、1度に食べるのは1個か2個まで。

饅頭と日本酒の組み合わせなんて、それまで知らなかった。

なかなかいける、と思うようになったのが恐ろしい。

 

子供のいる家で手は出せない。

だったら俺に慣れさせよう。

酒を飲みつつセクハラしたり、怒った相手を押し倒してくすぐりまくってやったり。

馬鹿みたいなことをして、いろんな顔を引きずり出してやる。

 

俺の手に慣れろ。

俺の声に慣れろ。

俺の肌に慣れろ。

俺たちは正反対の方を向いているかもしれないが、近い所にいるはずだ。

 

死ぬときは皆1人。

それは本当だ。

でもそれなら生きている間くらい、誰かと絆を作ってもいい。

 

ブラックジャック。

お前が俺を変えたんだ。

お前も変われ。

 

 

 

彼らの2度目を書く気満々で始めたのに、なぜかHが入れられませんでした。

キリコはもうそんなにがつがつしてないんです…。

よろしければ感想などいただけると嬉しいです。

 

 

 

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