逃避行の夜 2日目(下)

 

かがむと先ほどのように四つんばいにさせられる。 

男は俺の下を、仰向きに、足の向きを逆にして入ってきた。

スカー卜のようになった俺の前身ごろを払い、俺の腰に手を回して引っ張る。

足が崩れて男をつぶした、と思った畤、俺の中心は頬張られていた。

ひじを着きそうになり、目の前の服の盛り上がりに気づく。

俺もしろということか。

 

俺も前垂れを持ち上げ、の下着をあらわにする。

ひもをずらすには興奮した。

こいつは今、俺のものだ。

 

一生懸命口と手を動かすが、ともすれば流されそうになった。

袋と肛門の間あたりを押されて、ずくりとした快感が沸き起こる。

それは今まで知らなかったようなもどかしい気持ちで。

首を振った瞬間奴のものが口から出そうにな、あわてて引き入れる。

何とかこいつを我慢ならない状態にしたい。

俺は気持ちいいのだと思わせたい。

 

そう思ってがんばったのに、先に我慢できなくなったのは俺だった。

ものすごく我慢したつもりだったのに、あいつだって震えていたのに、自制心は結構るつもりだったのに。

出始めたら止まるものではない。

男の口に叩きこむように押し付けた。

 

男は苦しそうなうめきを1声漏らしたがすべてを受け止め、それ所か最後はすべてを絞り、吸い、飲み下した。

「ふう」

ためをついて俺を押しのけ、もぞもぞ起きだす。

俺の方が息が切れているなんて、あきれた話だ。

そんな俺の頬をなで

「結構うまくなったな。正直、やばかった。俺も苦しいから統き、してくれないか」

とまったく苦しくなさそうに言う

 

こなくそ。

 

男がさっきやったのをぞるよに手とを使う

「ちょっとこっち見て

と言われ、上目遣いに見たら

この角度、いいな。お前の口元がよ見える。そのままいやらしくしゃぶってくれよ。 かわいい顔を全部見ていてやるから」

と髮をなでられた。

 

言で根元を絞り、くびれに歯を立てる。

そんな睦言、女に言えというのだ。

「こら」

と髮をかき回されて口を離し

「かわいいなんて言うな、気持ち悪い」

と抗議すると

「わかったよ。本当はお前の顏はすごく男くさい。態度もしぐさも男そのものだし、けんかも強い。そういう男がどんな顔で俺を頬張るのか、見たいんだよ

と頬をなでられた。

「ばかばかしい」

と吐き捨てながら少々乱暴に扱ったが、時々上をチラ見すると必ず熱っぽい男の視線が絡みつき、こちらからそらす羽目になるのだった。

 

結局昼食を挟んで怪獣の着ぐるみやピエロなどまで試した拳句、俺の格好は白衣になった。

前開きの、普通の奴だ。

やはり普段の格好が1番いい。

下に着ていないのは落ち着かないが、ま、シャツだけよりましだ。

 

ソファに座ってテレビをつけ、2人してぼんやりする。

俺は不定期な仕事をしている為、基本的にドラマは見ないし、騒がしい芸人も嫌いだし、旅番組も興味がない。

日本のいわゆる高級温泉だの高級旅館だのは時々俺の風体を見ただけで急に満室になるからな。

大体温泉に入るのにばっちり化粧をしたままなんて、気持ち悪いし、食べ物を口に入れた瞬間「うまい」と言うのも行儀が悪い。

 

残るのはニュースとクイズ番組だが、いわゆる報道番組はうさん臭くてこれも嫌いだ。

大声でただわめいている様を討論とは言わない。

どこの局でも同じ事件を報道するが、それは他の重要な法案について考える時間をなくすにわざと民衆をあおっているよな、 嫌な感じを覚えるのだ。

 

「日本は平和だな」

とキリコがポツリと言った。

「こんなふうに誰かが誘拐されたり殺されたりするだけで事件になる。誰かの結婚や離婚なん、それより扱いが大きいくらいだし。で新法索や憲法についての報道がないんだう。選挙権がない俺が言うのもなんだけど、みんな戦争でも始まればすべて砂上の楼閣だってわかっているのかね。」

俺の側からは眼帝しか覗けなかったのでシニカルな口元しが確認できなかったが、今の言が皮肉だけでないのはわかっていた。

 

自分の力ではどうにもならないものに囲まれて、俺たちは生きている。

おかしいと思うことが世の常識なら、せめて負分だけは迎合しないで自分の信じることをしていくしかない。

「あいつは馬鹿だ」

と言われながら。

 

爆発事故を通して、俺は命の軽さを知った。

戦争を通して、きっとこいつは空恐ろしい体験をしている。

日本は平和だ。

どういう意味をこめてこいつはそれを言ったのか。

 

何かを話したい。

そう思うのに、俺は意気地なしだった。

ほんの少し腕を動かして、男の腕にくっつける。

せめて抱きしめてやりたいのに、何故俺はそれが出来ないのだろう。

男がを抱いてきたので、やっと俺も腕を回せた

 

しばらくして

「クイズかなんかないか」

と問われたので、チャンネルを替えていく。

ちょうどやっていたのは日本語の言い回しの間題だった。

キリコはこういう番組があるとなるべく見て、日本語のことわざや表現を学んでいるのだそうだ。

時々小難しい日本語を使う、元ネタはここか。

この番組はあまり見たことがなかったが、なかなか難問ぞろいだったので2人してあれこれと言い合う。

 

夕食後、一緒に風呂に入った。

お互いに満足しているので、特別な接触はない。

背中をこすってもらうのが気持ちよかった。

お返しに男の背中をごしごしこすりながら、は物思いにふけっていた。

 

風呂は俺の憩いの象微だった。

小さい頃母さんと入った風呂。

院生活ではなかなか味わえず、楽しみだった入浴の時間。

退院してからしばらくは人の視線を痛くも感じたが、それでものんびりと湯につかるのは幸せだった。

けれど背中をこすってもらったことは何度もあっても、自分がこする側になることはあまりなかった。

ベッドの患者でない人間にこんなふうに石鹼を泡立ててごしごしこするのは、どれくらいぶりだろう。

あの頃俺は、父親と風呂に入るのが好きだったつけ。

湯船でくつろぎながら、こんなふうに誰かと風呂に入るのも、たまにはいいかなと思う。

 

入浴後、コップの冷たい牛乳を一気飲みし、ぷはーと息をついていると

「寝る前にもう1度つけておくぞ」

と男が軟膏を持ってきた。

自分でしようとは思ったのだが、男がソファの前に行ってしまったので、又つけてくれるつもりなのだと知る。

こんなに待遇がいいなんて、こいつ俺に1つ借りだと思っているのだろうか。

あんなの俺のせっかいで助けたのだら、そんなのいいのに。

 

床にひざを着きソファに上半身を投げ出すと、後ろに回った男の手が白衣をまくり上げた。

「ふうん、朝より良くなっているな。まだ少し腫れているが。痛はどうだ」

と話す息が尻をくすぐる。

「朝よりはずっといい。歩いても痛みはないし

と答えながら、早く薬を塗って終わりにならないかなと思う。

 

ウーン、いくら相手が医者だといってもこういう格好は嫌なものだ。

今まで女性に

「私は医者だ」

と有無を言わさず患部を見せるよう、強要したことが何度もあったが、今度からもうちょっとデリカシーというものを身につけた方がいいかもしれない。

 

「ノーパンが良かったのかね。気に入ったようだし、しばらくそのままでいればどうだ」

と俺をからかいながら、男は指を入れていった。

「朝みたいに熱を持った状態じゃないな。内部もましになっているようだ」

独り言をつぶやきながら指を動かす男。

冷たかった指が少しずつ俺の体温に同化していく。

朝のようにすくむ痛みはない。

ほっとして身体の緊張を解くと指の動きがはっきりとわかる。

 

いったん出て冷たくなって戻ってきた指が、覚えのある場所に触れた。

そこに塗り広げられて昨日のことを思い出す。

だめだ、今思い出してはいけない。

薬、まだ塗り終わらないのだろうか。

 

昨日はもっと強くほぐされた

そこに指を当てられるたび身体がはねそうになり、必死に声を飲み込んだけど、そんなことが出来たのはほんの最初のうちだけだった。

悶え、泣き、もうやめろと思い、もっとと思った。

さぞかし無様だったろうと思うが、まだあざけりの言葉は聞いていない。

けれど今、そんな気持ちになっては困る。

昨日は昨日、今はただの治療中なのだから。

反射的に腰がびくつ

医者だからただの反射とわかってくれているだろうが、後で鎮めるのに苦労しそうだ。

 

結構強情だな」

という言葉よりその息が耳に吹き込まれたことに驚いて、反射的に身体をすくめる。

その時又前立腺をくるりとされて、遅まきながらわざとされていたのを知った。

「お前、早く抜け」

と言うが

「こんなにして?」

と前を探られる。

いつの間に、こんなに。

「指以外は入れないから、安心しな。今がついて痔主にしてもつまらないからな。ほとんど動かしてないから痛みもないだう? けど、こういうのも好きそうだな」

と男がごくゆっくり指をうごめかす

 

もどかしい。

さっきまで触っていた急所の周辺に指が移り、後ちょっとのところでそれていく。

身体が緊張して、逆に震えだすのがわかる。

「そんなにぎゅうぎゅう締め付けると、又悪化するぞ」

という男をちらりと見ると、心配げな口調と裏腹に喜びを隠せない顔をしている。

この野郎。

 

だが

「抜くかきちんと往かせるが、はっきりしろ」

とわめいた時は、恥ずかしながら涙声だった。

「気持ちいい。ああ、すごく気持ちいいから。お前にされるのが好きなんだ」

と問われるがままに答える。

 

今は非日常の時だから。

俺は無理やり言わされているだけだから。

しらふでは絶対言えない言葉も、今俺は正気を失っているんだから言ってもおかしくない。

だから。

 

夜中、ふと目覚めた時には、俺は布団の中だった。

隣に男が寝ている。

静かな寝息。

目を凝らすと暗闇の中でも輪部がぼんやり見える。

 

こんな俺でも女に全くもてないというわけじゃない。

だが寄ってくる女が恐ろしかった。 

には父の血が混ざっている。

自分の中に恐ろしいほど冷淡な面があることを知っている。

破局が訪れた時、俺のような思いをする子供がいたら。

 

明確に思うわけではない。

だがそんな恐れがいつも俺に付きまとっていた。

もしかしたら俺はこいつを利用しているのかもしれない。

こいつにならどんなに近づいても、絶対に子供が出来ることはないから。

 

思いがけずピノコと暮らすようになって、は孤独の意味を知った。

1度誰かと暮らすようになると、 1人きりの生活に戻ることなんてもう考えられない。

けれど俺は強欲で。

ピノコ1人ではまだ足りなくて、俺はこいつを巻き込んでいるのだろうか。

 

寝返りを打って、男が向こうを向いた。

どんなに目を凝らしても、もう顔は見えない。

残念だけど、どこかほっとしたような気持ち。

男の髪をひと房だけそっと握り、それをお守り代わりにまた眠りにつこうと努めた。