俺は奴の家に向かって車を走らせていた。

何であいつは来ないんだ。

せっかく今日はピノコが町内会の温泉旅行に行くから、泊まりに来いって行っておいたのに。

おととい日本に帰ってきたのは知っているのだ。

臨時の仕事ができたにしろ、約束した後ならどんなに嫌でも一言くらい連絡してくれたっていいだろう。

俺ならまず忘れるが、あいつは俺じゃないんだし。

身勝手な話だが、そのために寿司屋の娘にわざわざピノコを誘ってもらったのだ。

この俺がここまで根回ししたのだから、ほんとにピノコが戻るぎりぎりの時間まであいつの家で待ってやる。

今日の俺は妙に積極的だった。

 

奴の敷地に車を入れ、玄関に着いた時、何となく人の気配がした。

俺はそういうのに結構さといのだ。

なんだ、いるんじゃないか。

具合でも悪かったかな。

それなら気の毒だけど、俺が入ったほうが治療もしてやれるし、とチャイムを押す。

 

あれ、聞こえなかったかな、ともう一度。

 

チャイムが壊れているわけじゃないよな、と連打。

うーん、聞こえるよな。

ドアに耳をつけて様子を探るが良くわからず、念のため何度かドアを叩いてみる。

 

本当にいないのかも。

さっきの気配はただの俺の希望的観測だったのかな。

じゃあ仕方ない。

大声出してそれでもいなかったら、後はおとなしくここで待とう。

もしかして、夜に帰ってくるかもしれないし。

 

キリコ、大丈夫か。具合が悪くて出られないんじゃないだろうな。

という言葉は、なぜか口から出ると

「キリコ! 居留守なのはわかっているんだ。出てこないと窓を蹴破って入るぞ」

という、我ながら物騒なものに変わる。

何であの男にはこんな口をきいてしまうのだろう。

寂しくてつい乱暴な口をきくなんて、俺もまだまだだな。

あーあ。タバコ、あったかな。

 

寂しく1服つけようと思っていたら、ドアが開いた。

キリコ、いたんだ。

内心の嬉しさを出すのが照れくさくて、大急ぎでポーカーフェイスをつける。

今日はこいつ、帽子なんてかぶっている。

イスラム風の縁なし帽。

やはり風邪かなんかで頭が冷えるんだろうか。

でも

「何でお前、そんな帽子かぶっているんだ」

と聞いてもあいまいに笑うだけ。

ま、似合っているからいいけど。

いつもと違う姿にどきどきしてしまい、機械的に口を動かしながらそっと伺う。

こいつ、本当にどんな格好しても決まるよな。

こんな男が、本当に俺と付き合っているなんて信じられない。

まあきっとちょっとした気まぐれなんだろうけど、他の女(または男)の影はうまく隠してくれている。

そんな奴、いないんじゃないかと思うくらい。

 

気がつくとおれはじっと見つめられていた。

俺、何かついているか?

ちゃんと顔も洗ったし、それどころかピノコが出てすぐ頭からつま先までごしごし洗ったから汚れはないはず。

でもそれからいらいらしながら玄関の前をうろうろしたし、その時タバコも結構吸ったし、長距離ドライブもしたわけだから、少しは汗臭くなっているかも。

それともひげの剃り跡が残っているとか。

きちんと剃ったつもりだったけど、1、2本残っていたら幻滅だよな。

トイレで確認してこようかな。

 

居心地の悪さに視線を避ける手段を考えていると、突然肩をつかまれ、壁に押し付けられた。

防御をする暇もなく口付けられる。

どうしたんだろう。

でも嬉しい。

なんかこういうのって、自分が求められているような気がする。

差し込まれる舌を引き入れて軽く甘噛みしたら、お返しに引きずり込まれ、いやらしく吸われた。

息苦しくなるとちょっと離れ、でも完全に離れる前にまた始まる接吻。

体の奥がぞくぞくする。

 

何度目かの息継ぎのときに薄目を開けると、奴の帽子が宙に浮いていた。

え。

拡散しようとしていた思考を大急ぎで集め、もう一度観察する。

奴の頭から、どう見てもウサギの耳にしか見えないものが生えていた。

指摘すると大慌てで隠そうとでもしているような男。

その手をどかし、そっと触る。

 

あ、ぴくっとした。

うーん、手触りもいい。

根元のふわふわした毛も、輪郭の少し長めの毛も、ウサギそのもの。

けれど、髪の下に人間の耳も見える。

じゃあ、耳の穴はどうなっているのだろう。

 

そっとウサギ耳の穴に指を突っ込むと、耳がビクビクッと震えた。

それと同時に視界が反転する。

床に引きずりこまれた痛みよりも、性急にズボンを毟られるほうの衝撃が強くて身動きできない。

必死に制止の言葉を放っているのに、まったく聞く耳持たずに己のズボンの前をくつろげ、その大きくなったものを取り出す様は、まるでケダモノ。

ついぞこいつに感じたことのなかった恐怖。

 

まさか、そのまま突っ込む気か!?

ちょっと、そんなの、絶対、無理。

やめろ、やめ。

 

ギュイェエエエー。

 

最後の足掻きで振り回した手が、偶然ウサギの耳を捉えた。

こじ開けられる痛みに任せてぎゅーっと掴みあげた、そこがどうやら今の奴の弱点らしい。

な、何とか強姦の憂き目には遭わずにすみそうだな。

理性の戻った目に安堵しながらも、微妙に距離を保つのは忘れない。

 

衣服を整えながら、高圧的に耳の訳を聞いてみる。

どうも本人にも良くわからないらしいが、急に頭の2箇所が痒くなり、血が出るほどかきむしっているうち、突然あれが出たらしい。

待てよ、俺も昔そんな目に遭った事がある。

あれは確か。

「お前、もしかしてO宅国のコ・スプレ地方に行ったんじゃないか」

と聞くと、案の定おとといまで行っていたという。

なるほど、あそこか。

 

この、急に出現する耳ようの巨大吹き出物は、あの地方独自の風土病だ。

ほとんどのものは10歳までにかかり、その場合は1週間ほどでポロリと取れる。

取れた吹き出物は、日本のへその緒のように乾燥して大切に保存される。

結婚相手が浮気しそうになった時、それを煎じて飲ませると魅力が戻るという言い伝えがあるのだそうだ。

 

成人の罹患は少々厄介で、1月以上耳がついたままだ。

といっても別段体調が悪くなるわけではないし、1生に1度かかれば2度はかからないので、特別隔離はしない。

それどころかあの国の人間は獣耳にすごく魅力を感じるらしく、耳の着いている間、その人はどこでもちやほやとされ、まるでスター扱いだ。

実は俺もあの国でかかったが、とにかくどこに行ってもみんなが俺の耳を触りに来た。

あの国ではそれは相性を知るための大事な行事なんだとか。

あまりうっとうしいのでセルフオペで切断したら、みんながっかりしていたっけ。

確か関心のない人に触られても無感覚かうっとうしいだけなのに、好意のある人に触られると快感を覚えるというのだ。

だから、あの地方の人間は大事な人に会うときには自分が出した獣耳を模した耳をつけ、相手に触ってもらい、気持ちいい顔をしてみせるのだとか。

 

ま、俺は触られるたびにうっとうしいだけだったがな。

思い出しつつかいつまんで話しながら戯れにウサギ耳の縁をなぞると、男の顔が見る見る真っ赤になり、へたへたと座り込んだ。

あれ、こいつ。

迷信だと思っていたあれ、もしかして本当なのだろうか。

じゃあこいつ、俺のこと。

 

にやけまいと思っても隠し切れず、多分俺はしまりのない顔をさらしているはず。

それでも嬉しくてたまらない。

俺が触るとびくびくはねる耳。

とろんとする目。

本当にこいつは俺に、この俺に好意を抱いているとうぬぼれてもいいのだろうか。

信じられなくてことさら高圧的に出てみるが、意地悪を言ってもいじらしい目を向けるだけ。

本当に弱々しいウサギそのもの。

 

いつもたくましく俺を暴く男が目を潤ませる様は、嗜虐心をそそる。

でも服を着崩して挑発してみせると、その目からは情欲があふれ出んばかり。

本当に俺が欲しいなら、来てくれよ。

ほら、こっち。

ソファに座って奴が着衣を解く様を凝視すると、耳がぴくぴくはねる。

お前も興奮しているのか?

そんなに俺を欲してくれるのか?

 

我慢できなくなって俺もボタンをはずし、長い耳に指を這わせる。

きれいな、真っ白い耳。

内側はうっすらと赤くなって、これがただの吹き出物だなんて信じられない。

軽く握って引っ張ると痛みに目をすがめ、でもおとなしく俺のほうに来る。

我慢できなくなって男の顔を胸に押し付けると、そのまま胸を吸われた。

ちゅうちゅう、ちゅくちゅく。

幼子に乳を吸われるのって、もしかしてこんな感じだろうか。

つきりと痛いくらいなのに、体の奥底が気持ちいい。

普段とはなんだか違う。

男の興奮が俺にも伝播し、もっと色々したくなる。

 

硬くそりたった2本の耳がゆらゆら揺れるのが男の興奮を伝えているようで、のどがからからに渇いていく。

欲しい。

けれど男がズボンをくつろげ、その凶器をさらけ出すと、先ほどの恐怖を思い出す。

無理やりされるのは、怖い。

「待てよ」

とけん制しながら立ち、ローションの場所に行く。

男は恨めしそうにしているが、何も言わずに待っている。

我慢強く俺に相手してくれる、いつもの男だ。

それとも単にウサギの持つ従順さなのだろうか。

そういえば、さっきからほとんど男の声を聞いていない。

そんなところまで動物じみていて、倒錯めいた状況に興奮する。

俺、こんなアブノーマルな趣味を持っていたのだろうか。

知らない自分に出会った気分。

 

恥ずかしいからいつものように自分でほぐしてしまおうと思ったのだが、欲望をこらえてじっと見つめる様を見てお願いすることにした。

ひっくり返されそうになったが

「このままがいいんだ」

と膝立ちで大きく足を広げ、抱きつく。

こんなことを自分からねだるなんて恥ずかしい。

けれどあんな欲望いっぱいの目に見つめられて身体に火がついてしまい、歯止めがきかない。

 

首筋をくんくん嗅がれてそんなに汗臭いのかと不安になるが、不快ではなさそうだ。

逆に耳がぴんとして、一回り大きくなったように見える。

耳の付け根を掻いてやると俺の中の指が一瞬止まり、また力強く、でも痛くはないぎりぎりの力で準備を再開する。

本当にこの耳は快感を覚えているんだ。

俺の手で。

あの地方の言い伝えが本当だといい。

俺の耳がまだ生えていたら、この男に反応してみせただろうに。

 

もういいと言ったらすぐにのしかかられそうになったが、制してそっと倒す。

焦れて不満そうな顔がなぜかいとおしい。

男の顔を見ながらその中心を持ち、何とか俺の中にうまく収めようとあがいてみた。

今までいつもマグロのままこいつの奉仕を受けるばかりだったから。

正直時間がかかったが、焦れた顔をしつつもじっと我慢して待っていてくれたのが嬉しかった。

はあ、と息をつき、男を指で呼ぶ。

不審そうな顔をしながらも体を起こす男の耳に丁寧に指を走らせると、男の全身がわなないた。

 

いつも俺が気持ちいい分をお前にも味あわせてやる。

ほら、気持ちいいだろう。

俺の指に敏感に反応する、白い耳。

色の薄い髪に、よく似合う。

 

突然獣のような雄たけびを上げ、男ががむしゃらに動き出した。

負けじと俺も男の髪と言わず、耳と言わず、その頭を抱えて愛撫する。

この男と一体になって嵐を作り、そして突き抜ける。

それがこんな快感だとは。

 

怒涛の行為の後の脱力からやっとさめ、並んで寝転ぶ男の耳がふにゃっとしているのをからかう。

眠そうな顔は全力疾走した後の満足げなもの。

このまま寝かせてやりたいが、俺にはもう一つやることがある。

耳を軽くひねって立たせ、シャワーを浴びせて診察室に導く。

 

大人しくベッドに横になった男の耳元をくすぐってやり、気持ちよさそうに伸びをして丸まり、眠りの体制に入るのをじっと見つめた。

ごめんな。

でももしお前がほかの人間に触られてこんな反応を示したら、と思うと我慢できない。

俺に耳が生えたとき、さまざまな人間が俺を取り囲んでは耳に触った。

ほんの少しでも俺から反応が引き出せないかと、じっと見られた。

あの地方以外では恐ろしく知られてないから、日本にいる限りこいつは心配ないかもしれない。

けれど日本は萌えの国だ。

どこでどんな女(や男)に触られるかわかったもんじゃないからな。

 

局所麻酔が効いてきたか。

耳を触ってもまったく反応がなくなったのを確認して、俺はメスを手に取った。

 

 

男のウサギ耳の1本は丁寧に乾燥し、俺の机のペン立てにそっと立てかけ、いつでも見られるようにした。

もう1本は薬漬けにされ、彼の肝臓と俺のバイキンマン耳に挟まれて、俺の部屋の隠し戸棚に大事に保管されている。

 

 

 

あゆみ様の10万HITのお祝いに何かリクエストはないか伺ったら、「どちらかでも両方でもいいからケモ耳の話」とのことでした。

とんでもない伝染病をでっち上げてしまいましたが、原作でも身体から草が生えたりするBJワールドですので、何とか大目に見て下さい。

あゆみ様に贈呈したキリコサイドともどもお楽しみくだされば幸いです。