拘束衣―B
この間、奴に拘束衣を着せた。
最初はちょっとしたノリだった。
知り合いに中古の拘束衣をもらったので、そういうプレイをしようと持ちかけたのだ。
勿論奴は嫌がったが、しつこくねだれば絶対に折れると知っていた。
拘束衣の上目隠しまでされると知った奴は抵抗しようとしたが、そのときはもう遅い。
単にちょっとだけ恥ずかしいことをしたら、少しは乱れる姿が見られるんじゃないかと思っただけだった。
いつも、どんなことをしても奴は乱れない。
抱く側でも、抱かれる側になってさえ、俺は「抱かせてもらっている」だけだ。
いつも、どんな時も感情を閉じ込めようとする奴。
俺と二人のときくらい、もう少し見せてくれよ。
別に甘えてほしいと言うんじゃない。
度が過ぎたと怒るのでもいい。
何でもいいから、奴の本当のリアクションが欲しかった。
見えないのが不安なのか
「おい?」と話しかけるのを無視してメスの背を頬に当てたら息を飲むのがわかった。
あ、おびえている。
そんな顔は初めて見た。
それからだ、夢中になったのは。
胸の辺りを凪ぐ。
腹を。
下腿を。
すぱすぱと面白いように切れるメス。
奴が話しかけてもわざとあまり答えない。
時々メスの背を体に当ててそのあとをゆっくり舐めてみせると、体をふらつかせまいとがんばっている。
でも、平衡感覚がなくなってきたのか、催眠術に操られる人のように体が揺れている。
「後ろに倒れるなよ」と言ってやったが、転げ落ちるのは時間の問題だな。
そろそろ寝かせてやろうか、と思って体に手をまわしかけたとき、奴の方から「横になりたい」と言い出した。
そんなこと言われたら、ちょっといたずらしたくなる。
こいつ、暗示に弱そうだからと、薬を1錠飲ませてやった。
ただのビタミン剤だが、ブランデーで流し込んだから変な薬だと誤解しないだろうか。
今度こそ体が落ちそうになったのを受け止め、口付けしたいのをこらえてそっと下腿に触れると、ほっとした顔に緊張が走った。
目が見たい。
でも目隠しを取ったら、こんなに無防備に怖がったりしてくれないだろう。
もうちょっと、もうちょっとだけ。
どんどん行為がエスカレートしているのに、やめられない。
ここが内診台だと教えたら足を引き抜こうとしたようだが、もう遅い。
もともとは性的にいたずらするだけのつもりだった。
もし適性があったらめっけもん、嫌がるだけでも次回の種にはなるだろう、位の軽いノリで。
でも今は奴の泣き顔が見てみたい。
俺のせいで感情を掻き回される様を見てみたい。
何をしたら泣くだろう。
そういえば今日はシャワーも浴びずに始めていたのに気がついた。
じゃあ処理なんかもしてないよな。
何をするかは浣腸しながら考えよう。
トイレに行かせろだのなんだのぐずぐず言うので、腹を軽くマッサージして出させてやった。
クスコで入り口を開き、中を確認する。
うん、綺麗に出ている。
これならもう一度洗浄する必要はないかな。
ふと見たら奴が妙にほうけている様に見える。
疲れたんだろうか。
そんなに時間も経っていないのに。
もしもう飽きたなんて言うのだったら許さない。
そっと後ろに回り、耳元で
「足、このまま出産もできるように、もっと広げることもできるんだ」
とささやいたら急に嗚咽が漏れたので驚いた。
だが震えながら嗚咽を漏らす男はいつもの印象と違い、妙な嗜虐心をそそる。
今ならこいつの殻を破れるかもしれない。
目隠しをはずせという要求を突っぱね、でもなるべく怖がらせないように優しく話しかけながらそっと奴に触っていく。
あ、反応がいい。
やはり泣いたら枷が外れたかな。
でもこのままだとエスカレートしすぎて思い切り無茶なことをしてしまいそうだ。
さっきの汚物も処理しておきたいし、俺もいったん落ち着かないとこのままここでなだれ込んでしまいそうで。
汚物をトイレに流し、ついでに水を飲んで診察室に戻ると、奴が逃げようともがいている所だった。
今にも落っこちそうな危なげな格好を元に戻し、つい「逃げようとでもしていたのか」と冷たく聞いてしまう。
でも声も出ない様子の奴を見て、だめだ、とやっとわかった。
今日はもうやめよう。
こんなにおびえさせたかったんじゃない。
ほんのちょっと怖がらせたかっただけ。
彼女とお化け屋敷に入りたい、とか好きな子の筆箱にムカデを入れてびっくりさせる、とかそんな軽い気持ちだったんだ。
拘束衣を切り裂き、足のベルトを外し、目隠しを取り、手の包帯を解く。
内診台から降ろしてやるとそのまますがられ、動悸が早まる。
だめだ、今日はちゃんとこのまま返してやらないと。
もったいなくて仕方がないけど、このまま嫌われたらかなわない。
せめて誠意だけでも見せないと。
普通の診察台に誘導し、奴の服を取りに行こうとしたら急に手の力が強くなり、奴の上に乗り上げることになった。
「離れないでくれ」と言う目が濡れていて、それを見た途端理性が破裂し、四散した。
奴が弱気になっているのをいいことに、散々なぶるような真似をした。
これを逃したらチャンスはないとばかりに普段奴がさせないようなことをしまくった。
そんな俺がちょっと何かを取ろうと立ち上がろうとするだけなのに、そのたび奴がすがりつく。
それがどんなに異常なことかと気付いたのは、翌朝緊急手術に駆り出され、慌ただしく別れた後だった。
とりあえず「拘束衣」部分を先にアップ。