窮屈なシャワールームでお互いのケチャップを流しあった。
奴の肌は俺みたいに傷だらけではないので、すごくつるつるしているように感じる。
白人の肌は汚いと言うが、少しかさついているものの体毛も少なく、触り心地がいい。
でもピノコを洗ってやる時みたいに気遣ってやらなくてもいい、力のある体だ。
今日はこの体に思う存分触ってもいいんだ。
そう思うと妙にうきうきしてしまうのは、俺も少しは酔っているのだろうか。
ケチャップなんてすぐに取れてしまったが、そのまま触りっこのようにお互いべたべた触りあった。
濡れてしまった髪にも触る。
綺麗な髪だ。
銀髪の中にほんの少し白髪が混じっているが、本来の色とほとんど違わないので太さでそれとわかるだけ。
いいな、俺みたいに元が黒だと丸わかりだもんな。
別段自分の容姿なんてなんとも思ったことがないが、こうして他に対象物が出来るとほんの少しうらやましい。
わけもなくむかむかしていたら
「お前、いい体しているな」
と言われ、思わず顔を見たら俺の体を惚れ惚れと見回しているところだった。
「何を馬鹿なことを」
と言うと
「これ、事故かなんかの傷か?」
と傷を指される。
「小さい頃、爆発事故にあってばらばらになったんだ」
と言うと、
「そんな目にあってよくこれだけ動けるな。足もむちゃくちゃ速かったし、オペの指裁きも悔しいが神業だったし。どんなリハビリしたのか知らんが、相当大変だっただろう」
とそのまま傷を辿られた。
あのときの事を思い出すと痛みがぶりかえすことが多いのだが、今日はなんだかゾクゾクする。
こいつ相手に自尊心が満たされたのもあるが、それだけではなく、自分自身を認めてもらえたようで。
このままではなんかやばい。
思わず
「もう一度眼帯の中を見せてくれよ」
と言いざま手を伸ばした。
奴がひるむが
「だめか」
と再度問うと
「触るなよ」
としぶしぶ眼帯を外された。
「何で触っちゃだめなんだ」
と問うと、
「何となくまだそこに眼球があるような気がして怖いんだよ。勿論何もないが、感覚的には目玉にそのまま触られるような気がするんだ。よく腕を切られた患者が時々、無くなった片腕がずっと上げたままになっていて苦しい、と言うだろう。そんな感じで、もしかしたらなんかの神経が生きているのかもな」
と苦笑された。
何だ、こいつもそうなんだ。
古傷ってそういうものなのかな。
「眼帯、もうつけていいぞ」
と言い様、伸び上がってもう一度眼窩をぺろりとなめたら、飛びのこうとして壁に背中をぶつけていた。
痛みにうめいている奴の手から眼帯を取り上げ、もう一度付け直す。
もう今日は絶対に取らない。
口づけしたらどんどん濃厚なものになり、身長差のせいでさっきとは逆に俺が唾液を呑む羽目になった。
「お返しな」
といたずらっぽく笑われて、それなのに動悸が激しくなる俺はおかしいのだろうか。
「これ、どうやって使うんだ」
とリンスを掴むといやそうな顔をしながらも大まかな手順を教えてくれた。
さっき考えたのと大筋は違ってないな。
ただし細やかな気遣いが必要な部分も少々あって、あの時そのまましなくてよかったんだな、と思う。
「ここでしていいか」と聞くと
「最初からそんな上級者向きのことできるのか? もしあまり酷い扱いを受けたらそれなりの報復をさせてもらうからな」
と脅された。
仕方ないか、とぶつぶつつぶやく相手をなだめて四つんばいにさせ、そのまま局部を見るのも何なので覆いかぶさって指で探る。
緊張しているせいか、なかなか場所を特定できない。
ここだ、と思ったら嬉しくなってついぶすりと指を突き入れてしまい、カエルを踏み潰したような声がする。
「悪い」
とあせって体を起こしたら、思い切り指を動かしてしまったようで又苦鳴が漏れる。
それに又焦りが募ってしまい、自分の指なのにこわばってしまってまったく俺の言うことを聞かない。
折角今神業とほめてもらったばかりなのに。
「とりあえず、一度、出せ」
と言われ、あ、そうかと気がついた。
「今、入れたの1本じゃなかっただろ」
と問われ
「人差し指と中指」
と答えたら脳天に拳骨を食らった。
「しかも無茶苦茶しやがって。俺が言った説明、何も聞いてなかったのか。痔になったらどうする。それどころか腸が裂けたら手術が必要になるんだぞ。こんなことで救急車を呼ぶなんて、俺は真っ平ごめんだからな」
と怒鳴られ
「そのときは俺が」
と言ったら今度は梅干しを食らう羽目になった。
だって度忘れしちまったんだ。
「大体最初に周りをほぐせと言っただろうが。ちょっとやってみせるからお前場所を替わってみろ」
と言われ、おとなしく伏せの姿勢をとる。
「本当になんでこんなことに」
とぶつぶつつぶやく声と共に肛門付近を軽くマッサージされ、そっと指が入ってきた。
「ほら、こうやって少しずつ動かしていくんだ。痛くないだろ。」
と言われるが、確かに変な感じはするものの、特別痛くはない。
「適当にほぐれてからこうやって増やしていけば全然平気なのに、お前なんて最初から2本入れるは乱暴だわ」
とぶつぶつ言われながら指を増やされ、ゆっくりと中を探られる。
急に体がびくりとはねて、沸騰した。
それと共に急所の根元を押さえられる。
「おや、前立腺に当たったか」
とつぶやかれるが、こっちはそれどころじゃない。
うわ、何だこれは。
確かに昔、精液採取のためにそこを刺激したなんて事は聞いたことがあったが、本当にこんなに強烈だったなんて。
そんなに勃起していないのに精液だけ逆流しそうな感じ。
そこをせき止められてトイレを我慢して探し回る時のような切羽詰まった気持ちが強くなる。
出そうと思ってもいないのに、変な声が漏れる。
何だこの声、俺の声か?
腕に力が入らなくて頬がベタリと濡れた床につき、なのに下半身は刺激と共に大いにゆれる。
もう手順はわかった。
わかったから。
そう言いたいのに、まともに話すことができない。
このままではまずいことになりそうな気がする。
なのに奴の方もなにかのスイッチが入ってしまったのか、本格的にのしかかってきた。
「お前、今日は攻守交替で勘弁しろ」
というキリコの声も、妙に切羽詰まっている。
結果をすばやく言うと、俺はいただかれる立場になってしまった。
正直言ってうまく力を抜くのに少々てこずったが、奴の準備とリードが良かったせいか、大して痛い思いはせずにすんだ。
それどころか、何だこれは。
非常に強烈な体験だったとだけ言っておく。
ぐったりした俺にもう一度シャワーを使わせながら
「初体験がこれで悪かったな」
と謝罪されたが、俺だったら流血の惨事になっていただろう。
とりあえず、お互い気持ちよくなりたい、という部分はクリアできたからまあいいか。
一緒のベッドに横になって相手の顔をまじまじと見た時、俺本当にこいつとしたんだな、と実感した。
梅干し・・・こめかみに両こぶしを当ててぐりぐり 痛いです
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