いつの間にかズボンの前をはだけられていた。

「気持ちいいんだ」

と揶揄され、息子の元気さに赤面する思いだが、そっちはどうだって言うんだ。

お前だってかなり自己主張しているじゃないか。

ファスナーを下げようとしてもうまくいかないぞ。

俺の手つきに不安になったか自分で前立てをくつろげたのを見て、ほんの少し不愉快になる。

男は何故大きさを比べてしまうのだろう。

こいつは西洋人だし、こんなもので人間の価値は図れないぞ、と思いつつ、動物的な本能が勝ち負けをささやく。

むかつく。

 

そんな俺の気持ちなど気付かぬように、下から伸ばされた手が俺を再度あおっていく。

もう座っていることができなくなり横倒しになると、待っていたかのように抱き寄せられて、散々悶えさせられた。

 

俺は何で今までこういうことを避けてきたんだろう。

もうちょっと何とか経験を積んでおけばよかった。

色々機会はあったはずなのに。

初心者に何てことするんだ、こいつは、と思っても、まさか相手は初心者だとは思っていないだろう。

我慢できなくなり「出る」というと、すばやくティッシュを引き抜いてあてがってくれた。

恥ずかしい。

俺は子供か。

まるで下の世話をされている洟垂れ小僧の気分。

 

最後の1滴まで扱き出され、ばつの悪さに目を開けられないでいたら、耳に息を吹きかけられてびっくりして目を開く。

目の前に、奴の顔。

「もしかしてあまり経験、ないのか」

と言われ、しぶしぶ

「初めてだ」と答えると

「女は?」と聞かれる。

「だから、初めてだ」と言うと

「だってあの子は」と聞かれる。

「まさかピノコとなんてしないぞ!」と怒鳴ると

「当たり前だ。あの子は誰かとの子供じゃないのか」

と冷静に返され、ああ、そう見られていたのかとはじめて気付いた。

 

いつもあいつに奥さんだの何だの言われているから、まさか俺の子供と見られているとは思っていなかったけれど、そうだな、年恰好からいってもそう見えるよな。

「あいつは畸形嚢腫だったのを組み立てたんだ。俺の子じゃない」

と言うとしばらくふーんと考え込んでいるようだったが

「じゃあお前はさらっぴんか。これはよくよく料理してやらないとな」

とにやりと笑われ、話さなければよかったかと後悔した。

 

後のことは、よく覚えていない。

いや、実は覚えてはいるが、素面では思い出す勇気がない。

しつこいくらい丁寧な下ごしらえをされてしまい、そこら辺でもうお腹いっぱいですといいたい気持ちだったのだが、そんなのただの前菜に過ぎなかった。

メインディッシュに入ったらもう。

初めてだというのに俺は痛みどころか妙なものの方を感じてしまい、多分色々醜態を見せた。

料理上手な奴だ。

 

しばらくボーっとしている間に奴はベッドを離れ、俺はそのままうとうとしたらしい。

喉が乾いていがらっぽいのを何故だろうと思って、思い出して、一人で赤面する。

俺、なんか色々・・・。

 

急にドアが開き、起きている俺に気付いた奴が水を差し出しながら「風呂、入れるぞ」と言いうのにあわてて立ち上がった途端、違和感に足が笑う。

何とか踏みとどまり、水を受け取って一息にあおると

「担いでいってやろうか」

と言われ、むかりとする。

「お前、俺を担いでくれたんだろう?あのときには世話になった」

と言われ

「そう思うなら、今度はお前が下になれ」

と言ったら吹き出された。

 

あ、2度目だ。

こんな顔。

 

「それは次もあるってことだな」

と言われ、次があることを疑わなかった自分に気付く。

こいつは1度きりのつもりだったんだろうか。

俺はもっとこいつを知りたいと思っているのに。

畜生、俺の一人相撲か。

 

悔しくて、でもそれを出したくなくて顔を引き締めていたら

「光栄だが、正直お前が上をするのはもうちょっと後にしてくれ。流血の惨事になりそうだ」

と風呂場に案内された。

「着替えは俺のを置いてある。お前のはクリーニングに出したから、明日の夕方まで帰れないぞ。風呂から出る頃ピザが来る。あいにく今は缶詰くらいしか食料がないから」

と言われ、ちょっと拍子抜けしながら風呂に向かう。

 

こんなことをしたら、何かが変わってしまうんじゃないかと思っていた気がする。

俺たちの位置が?

奴が安楽死をやめるとか?

俺が安楽死を容認するとか?

まさかそんなこと、あるわけないのに。

それとももっと少女趣味な想像でもしていたんだろうか。

ピノコの好むメロドラマのように。

 

奴はピザと一緒にビールも頼んでいて、二人してもくもくと食べた。

すごく腹が減っているような気もするが、腹具合がおかしいような気もして思ったより食べられなかった。

ふうとため息をついて座っていたソファに寄りかかると、向かいに座っていた奴が隣に移ってきた。

 

肩を抱かれて、あ、キスされるか、とあわてて目をつぶったら頬をじょりっとくっつけられて飛び上がりそうになる。

「どう見ても男顔なのに、お前はかわいい顔をするね」

と言われ

「どっちがだ」

と返事する。

「さっきからお前のほうこそかわいい顔ばかりしているじゃないか。お前の笑い顔なんて蛇みたいなのしか見たことなかったのに、出し惜しみしやがって。いつもそういう顔していりゃあ可愛いんだ。吹き出したときの顔なんて、見惚れちまったぞ」

と返したら、びっくりしたような顔をして、それからほころぶような笑顔が出てきた。

 

それまでは、本当に奴を知りたいという欲求ばかりだった。

俺と奴の間に恋なんていう言葉が存在できるなら、多分俺はこの瞬間にそれをした。

「そうか。そんなふうに笑ったの、何年ぶりだったかな。俺はお前とこうしていると、面白くておかしくてたまらないよ」

そう言うときの顔はもういつものすかした笑い方だったけれど、それすらいつもと違って見えた。

 

 

 

キリコは気障な話し方だったけれど、敬語ではなかったような(というより敬語だと書けない(^^;)気もし、中途半端なしゃべり方をしています。

性格もいろいろ違うだろ、というところが多いのですが、そこはご容赦を。

感想や突っ込みなど、いただけるとうれしいです。

 

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