我慢比べ



どういう話題からか、我慢比べの話になった。

多分、今年の夏は暑いな、とかそんなことからだったのかもしれない。

お前、よくそんな暑い格好できるな。

そういえばこの間、テレビで我慢比べってのをやっていたよ。

あああれは日本の夏の風物詩みたいなもんだ。

そんな事言ったら、この変な外人が飛びつくの、わかりきったことなのに。


うちでもできるよな。

コタツやストーブは無いけど、エアコンで暖房入れればいいし、今日の夕飯、冷しゃぶの予定だったけどそれをしゃぶしゃぶにすれば熱くなるし。

酒は熱燗にして。

脱水はやばいから、熱いほうじ茶をやかんで作って、飲み放題にしよう。

格好はお前はそのまま、俺は冬のコートを着ればいいか。

それともマフラーとかスカーフくらい足した方がいいのかな。

てきぱき動く奴は本当に楽しそうで、止めろと言う時機を逸してしまった。


そして今。

俺達は異様に暖まった部屋の中に入る。

目の前には、ぐつぐつ言う鍋。

我慢比べならしゃぶしゃぶよりすき焼きの方がイメージだな、と不用意な一言を発してしまったせいで、メニューはこってりしたすき焼きになった。

むわあと湯気が立ち上る中、でも勝負となると止められない。

俺の方が絶対に暑さには強いはずなんだから。


鍋も終わり、熱いぜんざいをふうふうやっている時、突然奴が箸を落とした。

間一髪で奴のぜんざいをひったくると同時に体が倒れる。

ぎりぎりセーフ。

ぜんざいは。

エアコンを切ってばたばたと窓を開け、新鮮な空気を中に取り込む。

真夏日という話だが、驚くほど涼しい風。

いや、涼しく感じているだけなんだろうが。


服をくつろげて、濡れタオルで顔首筋を拭ってやるうち、目が開いた。

我慢比べは日本の夏の風物詩だから、俺が勝つのは当たり前だ」

と言ってやると

「ちょっとだけ寝かせろ。次は俺流の我慢比べで勝負だ」

と目をつぶる。

こいつも結構負けず嫌いなんだから。


コートと上着を脱いでタイをくつろげ、俺も転がる。

どうせ汗かきついでだ。

夏の暑い日に汗をかきながら昼寝をするのって気持ちいい。

窓からの涼風が、すごく気持ちいいものに感じられる。

まるで小さい子どもの頃の夏休みみたいだ。

体が溶けそう。


妙な息苦しさで目を覚ました。

暑いと言うより体がやわやわと締め付けられるような、妙な息苦しさ。

体がべとべとする。

べとべとというより、ぬちゃぬちゃ。

こういう時が一番不快で。


はっとして目を開ける。

「キリコ」

「なんだ」

「これは何のつもりだ」

「我慢比べ」

目の前にキリコがいる。

目の前と言うよりのしかかっていると言う方が正しい。

触られると、その手がべたっとくっつくような気がする。

そうでなければ、汗でぬめるような。

「汚いだろうが。続きはシャワーを浴びさせろ」

と言うと、ぎゅうっとしがみつかれた。

うう、シャツが体にへばりつく。

俺の汗の匂いとキリコの汗の匂い。

どちらとも知れぬ男の体臭に包まれてくらくらする。

俺、どれだけ汗臭いんだ。


「シャワーを浴びたら我慢比べにならないだろう」

と耳元でささやかれ、そのままべろりと舐められる。

「ふふ、お前の味がする」

という声に、かっと血が上った

耳の後ろ、首筋、脇、みんな汗腺とともに臭腺の多い場所だ。

そんな場所ばかりざりざり舐められ、体が羞恥にのぼせ上がる

「くく、余計に汗が出てきた。ほら、垂れるぞ」

その声とともに脇から汗が一滴出たのがわかった。

落ちきる前に舌で掬われ、余計に身悶える。


ファスナーをくつろげられる頃にはズボンは足にぴったり貼りついてしまっていた。

「パンツがびしょびしょだぞ。漏らしたのか。それとも汗だと言い訳するつもりか」

なんて、汗だとわかっているだろうが。

それとも違うのだろうか。

ズボンをはがれると同時に雄の匂いが色濃くした。

これは、俺のせいなのか。

わざとその前に顔を持っていき

「お前の匂いがする」

と深呼吸する男を足蹴にしたいが、出来ない。

暑いから。

この暑さで俺の理性はへろへろに崩れた。

我慢できない。


「じらすな」

と頼んでいるのにアイスを舐めるようにしかしてもらえず、気が狂いそうにな

「かわいいな、お前。余裕が無い時はそんなにかわいいんだな」

という男に反論すら出来ない。

何かいろいろわめいてしまったような気がする。

「もっとがぶっといってくれ」

とか、そんなこと。

「我慢比べは1対1で引き分けだな」

という言葉にこくこくうなずきながら、来るべき衝撃と歓喜に備えた。


これはなんだ、不意打ちを受けたからだ。

お前だって不意を衝かれたらこんなになるんだぞ。

夜中、無断だがハンデに片手だけベッドにくくらせてもらって、強引に最後の勝負、3回戦にもつれ込んだ。

性的に、というより恐怖に泣き叫ばれてしまったような気がするが、どうしてだろう。

けど、こいつは追い詰められるとすごくかわいい。

本当だぞ、俺、目は悪くないぞ。

趣味は悪いかもしれないけど。


我慢比べは暑気払いとはよく言ったもので、翌日は朝から豪雨になった。




あまりの暑さに脳みそが茹りました。

読んだらさくっと忘れていただけると・・・