あいつも俺が好きだ。
それに気づいたのはかなり前だったような気がする。
もともとは単なる商売敵だった。
あいつは俺を腕が悪くて治せないから殺してしまう落伍者くらいに思っていたんじゃないかと思う。
俺は奴の傲慢さが気に入らなかった。
けれど何度か顔つき合わせているうちに、何かが変わっていったのだ。
といっても、あいつは今でも仕事の時にはただの疫病神だ。
普段なら己でも放っておくような患者にまでしゃしゃり出てきて、とことんまで俺を邪魔する。
そのため患者が第一義にならず、対立が深まることもしばしばだ。
だがそれは俺を見下す為でなく、俺にいわゆる『手を汚させたくない』ことから発しているのだと知っている。
それが余計に悩みの種だが。
ただ、その「好き」は俺と違って単なる友情とかシンパシーだと思っていた。
何かの折ぼんやりした時など、ふと視線を戻すと必ず俺を見つめる瞳と出くわす。
そんなのが積み重なる内、もしかしたら、と思ってはいたけれど。
あいつの好意が俺のと似たものだと知ったのは、ある患者のオペの後だ。
難易度の恐ろしく高い、オペだった。
いくらお前さんでも絶対無理だと本気で反対したのに、手術は大成功。
本当に驚くほかない。
手術室から出てきたあいつはいつもどおり
「急変したら起こしてくれ」
と言うとソファに横になっていびきをかき始めた。
脱帽だ。
集中治療室に運ばれた患者の状態は、悪くない。
悔しいが俺は用済みだな、と思いながら戻った手術室前には奴がさっきのままの姿で眠っていた。
照明も落とされた廊下は肌寒いほど。
こんなところで寝ると、風邪を引くぞ。
揺り起こそうとしても、むにゃむにゃ言うだけ。
腕にかけていた俺のコートをかけてやり、その顔を見る。
なんか子供が一生懸命寝ている時みたいな顔。
ちょっとした気まぐれを起こして
「お疲れさん」
と言いがてら頬に軽く唇を当てる。
変なことした、と苦笑して離れようとした時、奴の目が開いているのに気づいた。