受話器を取った時に聞こえたのは、雨の音だった。

あとは町のざわめきがほんの少し。

無言だったので最初はいたずら電話かと思ったが、雨の中わざわざかけてくるのが変な気がしてしばらく付き合っていたら、なじみのある気配がした。

あいつか。

うちの方は雨が降っていないから、すぐ近くからと言うわけではなさそうだ。

「うちに来るか」

と聞いたが

「よければうちで」

と言われ、何かがあったのだと推測する。

普段なら、ピノコの相手を楽しそうにする男なのだ。

俺がこっそり嫉妬するくらい。

 

ピノコに

「急用が出来た。今日は帰らない」

と言って出る。

「あん! お夕ご飯カレーなのに!」

と言う声がするが、それなら明日も明後日も残っているだろう。

奴の暗い声。

何があったのかはきっと教えてもらえないだろうが、それでもあいつは俺に電話をかけたのだ。

あの弱みを見せたがらない男が。

 

車を飛ばし、奴の家に着く頃には大粒の雨が降り注いでいた。

庭に車を停め、玄関に行き着くまでにかなり濡れる。

ドアの鍵は開いていた。

ソファに後ろ姿が見える。

濡れたコートがコート掛けに引っかかっていたので、隣に脱いだコートを掛け、その背に近づく。

 

男は髪の毛すら拭かずに眠っていた。

疲れきった顔で、眉間にしわが寄っている。

勝手知ったる他人の家、洗面所のタオルを失敬し、自分の髪の毛を拭きつつ戻り、ちょっと湿ってしまったそれを奴の頭にかぶせてかき混ぜる。

「うわっ」

と言う声は無視。

こんな格好で寝やがって。

風邪引くだろうが。

普段言われるようなことを自分が言うのは、変な気分だがちょっと楽しい。

 

ごしごしこすっていたら、いつの間にか髪がぐしゃぐしゃになってしまった。

手ぐしをかけてやりながら

「世話の焼ける奴だな」

と普段自分が言われる側のせりふを言いつつ、腕を引かれるに任せる。

奴の体に乗り上げるようにしての接吻は、普段と異なり少々乱暴で苦しかった。

腰と頭の後ろをがっしりつかまれ、口内を余すところ無く蹂躙される。

息継ぎがうまく出来なくなり、最後は渾身の力でもぎ離した。

 

それが乱暴だったか、それともむっとして見えたのか

「悪かった」

とばつが悪そうに言われた。