インドで患者を死なせた。

オペ自体は成功したのだが、本人が自殺したのだ。

もう戦うのに疲れたと。

これ以上のリハビリは嫌だ、妻が待っている、と部屋の中をほんの少し歩けるまでに回復した途端、飛び降り自殺した。

 

あいつの邪魔をしないほうがよかったのだろうか。

今回のオペは、本来あいつの仕事だった。

俺は横から仕事を掻っ攫ったのだ。

オペの後、ガラス玉のような目ですべてを見回し、患者の部屋を出て行った奴は、何も言わなかった。

いつものような嫌味交じりの忠告すらなかった。

奴はこの結果を最初からわかっていたのだろうか。

 

逃げるように隣国ネパール行きの飛行機に乗った。

空港で奴に似た男を見たような気がしてそのまま逃げるように国内線に乗り込み、ここポカラまで来てしまった。

くよくよしても始まらない。

家に帰って、新規巻き返しだ。

そう思うのだが、今の俺をピノコに見せたくなかった。

 

洗濯物を洗い、干そうとベランダに出たら、遠くにヒマラヤが見えた。

空が白っぽいので、雪をいただいた山はまるで写真を切り取って貼ってあるように見える。

非現実的な光景だ。

 

ふと山歩きでもしてみようか、という気になった。

普段の俺なら絶対にそんなこと、思わない。

山の上に患者でもいない限り。

だがその時の俺はとにかく体を酷使して頭を空っぽにしたかった。

くたくたになるまで体を動かせば、何も考えずに眠れるかもしれない。

 

・・・・・

 

シャツとズボンとサンダル裸足の俺を見て、奴は

「今日は軽装だな」

と笑いをこらえたようだった。

無視して食事を注文。

む、チキンがある。

山に入ってこの方、肉なんぞ食っていない。

やはり今日はチキンステーキか。

俺たちが同じ注文をすると、すぐに鶏が一羽台所に運ばれていった。

ふかふかの白い奴。

残さずきちんと食べるからな。